2014年08月30日

ある恋の旅路_4

クオパティ寺院裏。
ジェム屋近く。

「はっ!ごっ、ごめんなさい!」
正気に戻ったラプルの手から、血塗られた鈍器がカラーンっと、落ちる。

――なぜだ。

瀕死の男は思う。

たまたま通りかかったノームの、
『溢れだす脳汁亭というユニオンをご存じないですか?』
という質問に、

『ああ、そのギルドなら半年前に解体されましたよ。』
と答えたところ、なぜか逆上されてこのざまだ。


「フォルクスハンマー+7は、さっ、さすがにやばい…。」
シーフポーションを飲みながら、男が立ち上がる。

「あっ、ウインドノックの方がよかったですか?」

「いらねえよ! ださなくていいよ! しかも+8かよ!」

「これなら確実に…、眠れますよ?」
「ああ…、不眠症か人生やめたくなった奴にいってやれ…。」


「はっ!すっ、すいません!つい知り合いのヒュム男さんの感覚で…。」
「…そいつ、かわいそうだな…。」

「いえ、むしろご褒美だと。」
「喜んで!?」

「基本、死にオチしかない人なので。」
「そいつ、守護者の血!抜いてやれよ!」

「それじゃあの人には何も残らな…、って、もう!脱線してますよ、話が!」
「…せやな。」

男は何とも言えない疲労感に包まれながら、こう思うのである。

――逃げなければ。

「…そういうわけで、そのユニオンは解体されたんですよ、お嬢さん。以上、OK?」

「NO!」
「………。」

「解体された後、所属されていたメンバーの方はどうなったんですか!
 『解体された』ことを知ってるということは、あなたも関係者だったのではないですか!」

「………。」
男は、今にもウインドノックをぶんぶん振り回しそうなラプルから目をそらして、
イルファーロのくすんだ空を見上げる。

――さて、この危ない女を、あそこに連れていくべきか。

1.この身が朽ち果てようとも、あそこの情報を伝えてはならない。
2.命を大事に。

  
posted by レクタード@wiz at 09:28| 千葉 ☔| Comment(0) | ある恋の旅路(未完・放置) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年08月25日

ある恋の旅路_3

それが3年前の春。

時は流れて新米プリーストはビショップになり、

10代だった少女は、めでたく二十歳となった。

なに、めでたくない?
これは失礼した。

「あ、あの…。」
「はい?」

イルファーロの外門。
その門番であるガードナーに、ノームの女、ラプルが声をかけている。

「この街は…、イルファーロで、間違いないでしょうか?」

「ええ、ここがイルファーロです。ようこそ冒険者殿。」
「ほ、ほんとに……、ほんとですか?」

「はい?」
「迷いの森だとか、イルフ『ィ』ーロとか、そういう落ちはもうたくさんですよ!」

「いや、あの…」
「わかった!100年前のイルファーロって落ちでしょう!あなたはきっと、『魔力消失事件』の話をしたら、首をひねっちゃうんですよね!」

それは割と忘れてる冒険者も多いが。

「えっと…、とりあえず宿屋で落ち着かれては?」
「宿屋のベットで寝ると、** おおっと テレポーター ** って罠なんですね!いいですよ!どんな罠だって私の恋心で乗り越えて見せます!」

なぜかラプルは、決意を秘めた瞳で街中に入っていく。

「なんだあの女…。」
門番ガードナーが肩をすくめているが、まあ無理もない。

なんせ彼女は首都アイトックス郊外からこの町に辿り着くのに、3年、かかっているのだ。

一般人が歩いても数日でつける距離の間になにがあったのか、
それはまた別の機会に話そう。

とにかく彼女は、オークに敗れてから小説10巻分くらいの大冒険を経て、この町に辿り着いた。

その目的はただ一つ。

オークから自分を救ってくれた(そのあと当人は窒息死したが)『白馬の王子様』に会うためだ。

あの後、彼女の死体は最寄りの村の教会前にマントにくるまれた状態で放置されていた。
そのマントの上に、蘇生料なのか埋葬料なのか、200Gが置かれていたらしい。

そこでためしに教会の司祭が200Gを捧げて蘇生を試みたところ、成功したのだ。

そして彼女をくるんでいたマントはユニオンマントであり、
そこからユニオン名を洗い出すことができた。

『溢れだす脳汁亭』

――そこに、『彼』がいる。

どんな人だろうと、
どんな声だろうと、

『彼』を想わぬ日はなく、『彼』を支えに長い長いイルファーロへの旅路を過ごしてきた。

だから――

数時間後に、ユニオン『溢れだす脳汁亭』が解体されているのを知った時、
彼女はそれを教えてくれた親切な男を思わず、なぐり殺しそうになってしまったのである。


  
posted by レクタード@wiz at 14:45| 千葉 ☁| Comment(3) | ある恋の旅路(未完・放置) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年08月24日

ある恋の旅路_2

1.無慈悲な、だれも救われない世界である。
⇒薄い本をどうぞ。

2.――だが奇跡が起こった。

「「「ブギャーーー!」」」

それは、突然やってきた。

『な、なに?』
思いっきり泥に顔面を突っ込んでいるノームの少女に知覚できるのは、『音』だけだ。

ブン!
ブウウン!

『斧?剣?』
なにかが振られる音。

それ以外は、オークのブヒっ、ブヒ――という鼻息なんだか鼻声なんだかよくわからない音しか聞こえない。

やがて、その音は遠ざかっていき、

『あっ、あれ?』
森に、静けさが戻って来る。

『わっ、わたし。助かったの?』
うれしさに顔を上げようとして、

『はっ!』

――気づく。
自分の顔面に施された泥パックに。

『だ、だめ!こんな顔見せられない!』

『誰』に見せられないってそりゃあ、

――ガチャリッ…、ガチャリッ…。
絶対絶命の『ヒロイン』であるところの『私』を助けててくれた、『ヒーロー』にである。

――ガチャリッ…、ガチャリッ…。
『彼』の、白銀の甲冑が奏でる金属音が近づいてくる。

『キャ、キャーーーー!』

――ブボリ!

ノームの少女は、よくわからない衝動に任せて、顔をさらに泥の中に埋めていく。

『だめ――!こないでー!』

心臓のドキドキが止まらない!
--酸素が足りなくて。

胸が苦しい!
--息ができなくて。

「―――、――。」
上から『彼』の声が落ちてくるが、少女の耳には届いていない。

――ツンツン。
『彼』が、少女の背中をつつく。

「………。」
グッっと、『彼』が少女の体を持ち上げる。

「………。」
それはとても重く、
――息をしていなかった。




★ 今日の死因 ★ : 窒息死♪

posted by レクタード@wiz at 21:04| 千葉 ☁| Comment(1) | ある恋の旅路(未完・放置) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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